
2025年4月から住宅の新築においても省エネ基準適合が義務付けられ、以前よりも「外皮計算」を行う機会が増えています。
外皮計算は手間のかかる作業ですが、建物の断熱性能を示すUA値や、平均日射熱取得率を示すη値(ηAC値・ηAH値)を性能指標で定量化できるため、設計の改善点を見つける有効な手段となります。
一方で「どのように基準を満たせばよいか分からない」「どの部分から改善すべきか分からない」といった悩みを抱える事業者も少なくありません。
本記事では、外皮計算の基礎を押さえたうえで、その結果をどのように改善へつなげるかを解説します。さらに、現場で使える改善メソッドと効率化のためのソフトも紹介し、実務にすぐに役立つ視点を提供します。
外皮計算の基礎を押さえる
外皮計算は、住宅の省エネ性能を把握するうえで欠かせないプロセスです。ここでは、外皮性能の基本的な意味や、外皮計算によって何が分かるのか、さらに一次エネルギー消費量との関係について整理しておきましょう。
外皮性能とは?(UA値・ηAC値・ηAH値の意味)
外皮性能とは、建物の外皮(壁・屋根・床・窓などの外部と接する箇所)を通して熱がどれだけ伝わりやすいかを評価する指標です。外皮性能の評価には主にUA値が用いられ、あわせて冷房期・暖房期の日射熱取得の影響を把握する指標として、ηAC値およびηAH値があります。
- UA値(外皮平均熱貫流率):
室内の熱が外皮からどれだけ逃げやすいかを示す指標です。値が小さいほど熱が逃げにくく、断熱性能が高い住宅であることを示します。 - ηAC値(冷房期の平均日射熱取得率):
冷房期に外皮からどれだけ日射熱が室内に入るかを示す指標です。値が小さいほど日射遮蔽性能が高く、冷房効果が高くなります。 - ηAH値(暖房期の平均日射熱取得率):
暖房期に外皮からどれだけ日射熱を室内に取り込めるかを示す指標です。値が大きいほど太陽の熱を効率よく利用でき、暖房負荷の軽減に役立ちます。
UA値とηAC値は、それぞれ省エネ基準適合義務化において求められる基準値が定められています。地域区分ごとに必要とされる水準は異なり、寒冷地ではUA値(断熱性能)が特に重視される一方で、温暖地ではηAC値(冷房期の日射遮蔽性能)が重要になります。
なお、ηAH値は省エネ基準の判定には使用されませんが、冬期の日射取得や暖房負荷の検討において参考となる指標です。
UA値・ηAC値・ηAH値は、住宅の外皮が持つ特性を理解するための基本要素であり、省エネ性能や快適性を総合的に検討する際の重要な判断材料となります。


なぜ外皮計算が必要なのか
2025年4月より、住宅の新築では省エネ基準適合が義務化されました。適合を判定する方法として「仕様基準」と「性能基準」の2つが用意されています。外皮計算は、「性能基準」による省エネ基準適合の判定に必要となるプロセスです。
仕様基準は、あらかじめ定められた断熱材や開口部の仕様を満たすことで適合を目指す簡易的な手法です。しかし、建物条件にかかわらず各部位の仕様が高めに設定されているため、結果としてオーバースペックになりやすく、建築コストが高くなるという側面があります。加えて、一部の設備や設計手法に制約があり、設計の自由度が制限されるというデメリットもあります。
一方、性能基準の場合、外皮計算は必要になるものの、設計の工夫次第で建築コストを抑えつつ省エネ性能を高めることができるため、実務では性能基準を選ぶケースが多くなっています。外皮計算を行えば、UA値の内訳から「どの部位で熱が逃げやすいのか」、η値から「どの窓や方位から日射熱が入りやすいのか」といった改善の手がかりを把握できるため、より合理的な設計改善につなげることが可能になります。
さらに、外皮計算は単なる基準適合のためのチェックにとどまりません。断熱性能や日射遮蔽性能を定量的に把握し、設計改善の方向性を見極める指標として活用できるほか、顧客への提案や説明の根拠にもなります。UA値やη値をもとにプランごとの省エネ性能を比較し、居住後のランニングコストを試算することもできるため、「冬場の光熱費を約○○円抑えられる」「こちらのプランの方が○○年後にはお得になる」といった信頼性のある説明が可能になり、他社との差別化にもつながります。
このように外皮計算は、省エネ基準適合の判定のためだけでなく、設計改善と顧客対応の両面で欠かせない役割を担っているのです。
一次エネルギー消費量との関係
住宅が省エネ基準に適合しているかを確認する際には、外皮性能だけでなく一次エネルギー消費量の評価も必要になります。外皮性能が建物の「器」の性能を示すのに対し、一次エネルギー消費量は、空調・換気・照明・給湯などの設備を含めたエネルギー効率を評価する指標です。
この判定には BEI(Building Energy Index) が用いられます。BEIは「設計一次エネルギー消費量 ÷ 基準一次エネルギー消費量」で表され、1.0以下であれば基準適合となります。
外皮性能が高ければ冷暖房の負荷が小さくなり、設計一次エネルギー消費量が抑えられるため、BEIを下げやすくなります。逆に外皮性能が不足していると、いくら高効率な設備を導入してもBEIが改善しにくく、基準をクリアできない可能性があります。
このように、外皮計算は単体で重要であると同時に、一次エネルギー消費量評価の結果を左右する基礎的なステップでもあるのです。
外皮計算を改善に活かす考え方
外皮計算は、省エネ基準への適合を確認するためだけの作業ではありません。計算結果を活用すれば、建物の弱点を把握し、効率的に改善策を検討するための根拠となります。ここでは、外皮計算を設計改善に活かす際の基本的な考え方を整理します。
計算結果から弱点を見つける
外皮計算の価値は、単にUA値やη値という指標を得るだけではありません。その指標の内訳から、どの部位が性能を左右しているのかを把握できる点にあります。
例えば、同じUA値でも「窓の熱損失が大きいケース」と「屋根や外壁からの熱損失が大きいケース」では、取るべき改善策がまったく異なります。計算結果を細かく見れば、どの部位が“足を引っ張っているのか”が明確になります。
また、η値についても同様です。窓全体での平均値に見えても、特定の方位や開口が値に大きく影響を与えていることがあります。そのため、外皮計算の結果は、「設計改善の方向性を判断する根拠」として活用できるのです。
改善の優先順位を決める
外皮性能の改善にかかるコストを抑えるためにも、どこから手を付けるかの優先順位を整理することが大切です。
- 改善効果が大きい部位から
窓や開口部は熱の出入りが大きいため、性能改善のインパクトが大きく、優先度が高くなります。 - 日射取得と日射遮蔽
庇や外付けブラインドなどで夏場の日射を遮り、冬場のみ日射を取り入れるようにすると、コストを抑えつつ省エネ性能を高められます。 - コストとバランスを取る
屋根や壁の断熱強化は効果が見込めますが、施工コストも増えます。床断熱は効果は限定的ですが、比較的コストを抑えて外皮性能の底上げが可能です。
このように、外皮計算の結果を「根拠」として改善の優先順位を整理することで、コストと性能のバランスがとれた現実的な省エネ設計が可能になります。
外皮性能を高める実践的メソッド
外皮性能を高めるには、すべての要素を一度に見直すのではなく、影響の大きい部分から順に改善していくことが効果的です。特に窓や開口部は、断熱・日射遮蔽の両面において建物全体の性能を大きく左右します。ここでは、実務で取り入れやすい改善のポイントを紹介します。
窓から始める改善
外皮性能の改善で最も効果が出やすいのが「窓」です。外壁に比べて窓は熱の出入りが数倍大きく、UA値・η値の両方に直接影響する要素です。
- サッシの素材を見直す
アルミサッシは熱を伝えやすく、樹脂サッシやアルミ樹脂複合サッシへの変更で大きな改善が見込めます。 - ガラスの種類を選ぶ
ペアガラスからトリプルガラス、またはLow-Eガラスへの変更は断熱性を高めるとともに、日射取得・遮蔽のコントロールにも有効です。 - 開口部の配置と面積を最適化する
大きな南面開口は冬の採光には有利ですが、夏の日射取得を抑える工夫(庇やガラス選定)が必要です。逆に北面や西面の大開口は熱損失や日射負荷を増やす要因になります。
まずは窓の性能と配置を見直すことで、コストを抑えながら効率的に外皮性能を底上げすることが可能です。

窓ガラスの断熱性能
断熱材と日射遮蔽の工夫
窓の改善に続いて検討すべきなのが、断熱材の性能と日射の遮蔽計画です。これらは住宅のエネルギー効率を底上げするうえで欠かせません。
- 断熱材の種類と厚みを見直す
高性能グラスウールや硬質ウレタンフォームなど、熱伝導率の低い素材を選ぶことで熱損失を減らせます。特に屋根・天井部分は熱の出入りが多いため、優先的に強化すると効果的です。 - 熱橋(ヒートブリッジ)対策を行う
柱や梁の取り合い、金物まわりなどの熱橋を減らすことで、計算上の数値だけでなく実際の体感性能も改善します。 - 庇や植栽による日射遮蔽
夏場は南面の庇で直射日光を遮り、冬は日射を取り込む設計が有効です。東西面では外付けブラインドや植栽を活用して遮蔽効果を高めます。
断熱と日射遮蔽を両立させることで、冬は暖かく・夏は涼しい住宅を実現でき、省エネ性能だけでなく快適性の向上にもつながります。

庇による日射取得と日射遮蔽
設計段階での取り入れ方
外皮性能の改善は、設計の後半で“調整”として行うよりも、初期段階で組み込むことが最も効果的です。
- プラン段階で方位と開口を意識する
南面の採光を活かしつつ、西日の影響を受けにくい開口の位置や大きさを計画します。 - 外皮計算を早い段階で試算する
おおまかなプラン段階でも外皮計算を行い、窓の面積や断熱仕様の影響を早期に把握することで、後戻りのない設計が可能になります。 - 性能・コスト・デザインのバランスを取る
外皮性能を高めるほどコストも上がるため、数値目標だけに偏らず、設計全体で最適なバランスを検討する必要があります
外皮計算を設計初期の「検討ツール」として活用することで、省エネ基準をクリアするだけでなく、根拠を持って性能を設計に反映できるプロセスが確立できます。
外皮計算を効率化するおすすめソフト「A's(エース)」
建築CADソフト「A's(エース)」の概要
「A's」は、図面作成はもちろん、建築パースやプレゼン資料、省エネ計算や積算機能まで幅広くカバーした建築CADソフトです。直感的な操作で設計業務をスムーズに進められるほか、区画に部屋名を指定するだけで壁や柱、床高などを自動生成。図面の変更があれば関連図面もリアルタイムに更新されるため、整合性を保ちながら効率的に作業できます。
プレゼン機能も充実しており、美しい建築パースの作成に加え、スマートフォンやWebを活用した提案手法も搭載。お施主様に対して、より魅力的で説得力のあるプレゼンを行うことができます。
さらに、省エネ計算では外皮性能や一次エネルギー消費量をスピーディーに算出でき、提案用のプレゼンボードも出力可能。設計から提案まで、省エネ住宅に必要な業務を一貫してサポートします。
外皮計算を効率化できる理由
設計からプレゼンまで幅広く活用できる「A's」ですが、特に注目すべきは外皮計算を含めた省エネ設計対応の強さです。ここでは、省エネ住宅の設計や提案に役立つA'sの特長をご紹介します。
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外皮性能や一次エネルギー消費量をすばやく計算できる
UA値やη値などの外皮性能は、外皮面積の自動算出機能や断熱仕様の入力アシスト機能などにより迷わずに計算できます。また、一次エネルギー消費量もWeb判定プログラム(※)とのAPI連携により仕様を入力する手間が省け、素早く計算できます。
※ 国立研究開発法人建築研究所提供「エネルギー消費性能計算プログラム(住宅版)」 -
実際の建具メーカー各社の断熱仕様を搭載
断熱仕様を入力する際、従来は建具メーカーのWebサイトなどから性能値を拾上げる作業が必要でしたが、A'sは実際の建具メーカーの性能値を搭載しているため、その手間を省きつつ現実的で精度の高いシミュレーションが可能です。
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ZEH仕様のテンプレートを標準搭載
自社仕様が定まっていない場合であっても、建産協が提供する地域別ZEH基準適合仕様例を搭載しているため、地域等で絞込選択するだけで断熱材仕様や熱貫流率等が自動設定され、計算できます。
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省エネ性能が一目でわかるプレゼンボード
お施主様への提案用に、住宅の省エネ性能を視覚的に伝えられるプレゼンボードを出力できます。提案したプランが省エネ基準やZEHといった誘導基準に適合しているか、他のプランと比べて光熱費などのランニングコストがどれだけ抑えられるかを示せるため、提案力の向上につながります。
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CEDXM形式で他社製建築CADデータと連動可能
「A's」以外のCADで作成したデータを、CEDXM形式で取り込むことができます。過去のプランデータを活用して、入力時間を短縮できるだけでなく、これまでの資産を有効に活かすことができます。

外皮性能計算機能

省エネ性能が伝わるプレゼンボード